覚醒レベル

1.はじめに

列車運転中の眠気防止は重要な問題である。特に深夜から早朝にかけての列車運転は,既日リズムからみて心身機能が低下する時間帯にあるため,昼間よりも眠気を一段と催し易いと考えられる。また運転を長時間続けた場合の心身の疲労と単調感も覚醒を保持しようとする努力を低下させるため,眠気を促進する要因になると考えられる。

運転士は,眠気防止の手段として,それぞれ自分なりの対策を試みているが,特に有効な手段はないといっている。従って,各種眠気防止策の覚醒効果を明らかにすることは,眠気防止対策を確立するうえで重要であると考える。

我々は,皮膚電位水準とまばたき回数などのデータの合成値を用いた覚醒レベルの評価方法を提案し(倉又ら,1993),それを用いて各種眠気防止の諸手段を実施した時の覚醒レベルの持続効果などについて報告してきた(倉又ら,1994)。

これらの研究成果のうち,ガム咀嚼による覚醒効果についての実験では,一過性の覚醒効果は大きいが,そのまま咀嚼を続けても急速に覚醒効果は低下する結果となっていた(倉又ら,1994)。しかし,遠藤ら(1982)は,実験的なバス走行時において市販ガムの咀嚼でも覚醒効果のあることを報告している。

上記の事実とともにガムは簡単に扱えて実用的であることを考えると,覚醒レベル持続効果のあるガムが得られるならば,列車運転時における覚醒レベル維持に有効な手段になると考えている。

そこで,より大きな覚醒効果が期待される数種の成分と特有な味覚を持つイチョウ葉エキス,菊花エキスを加えた特製ガムの覚醒効果を検証することを目的に,実験的に覚醒レベル持続効果について検討を行った。その結果,特製ガムは高い覚醒効果があることが明らかとなり,既に報告した(塚本ら,1994)。

今回は,ガム咀嚼による覚醒効果の研究の一環として,既に実験室実験において覚醒効果が明らかになった特製ガムについて,実際の列車運転時における眠気防止効果を確認することを目的に,鉄道運転士を対象にアンケート調査を実施したので,その結果を第2報として報告する。

2.アンケート集計結果

(1)運転中における眠気の体験

では,これまでに運転中に眠気を体験したことがあれば,その時間帯とともに主としてそれが運転開始からどのくらいの時間が経過した頃であったか,について回答を求めた。

(1) 眠気調査の発生時間帯 人間は,昼夜の周期に合わせて眠りと目覚めを繰り返しており,この周期を既日リズムあるいはサーカディアン・リズムと呼んでいる。

橋本(1973)はフリッカー値の変動からみた既日リズムは,高速道路での居眠り事故や鉄道での信号違反事故が発生した時刻別分布と逆相関を示すことを報告している。すなわち,深夜から早朝にかけての時間帯と15時前後の時間帯に覚醒レベルが低下し,眠気を感じることが多く,そうした時間帯に事故が発生し易いことを示している。

このように,昼と夜とでは運転の生理的負度が当然違ってくるため,塚本ら(1994)は各種現場調査で得られたデータを基に正準相関分析によって,3時間ごとの時間帯に分割し,生理的活動の既日リズムを考慮した重みづけを提案している。

そこで,眠気の発生時間帯を問う設問では,この重み付けの時刻区分に従って,最大2つまで選択可能という条件の下で回答を求めた。

結果は,眠気を体験し易い時間帯として心身機能の既日リズムを反映して,深夜・早朝の時間帯が多く選択され,「1:00~4:00」が459件と最も多く,以下,「4:00~7:00」が383件,「13:00~16:00」が253件の順番で選択された。

(2) 運転開始時からの眠気発現の時間
次に,運転開始後どのくらいの時間が経過した頃に眠気を体験し易いかについて回答を求めた。

結果は,「60~90分以内」および「30分~60分以内」の選択が,それぞれ309件,283件とほぼ同数程度おり,両者を合わせると約7割近くの回答者が,30分ないし1時間程度が経過した時分に眠気を体験することが多いと回答している。

(2)現場で実践されている眠気防止策

(1) 運転士が日常の運転業務のなかで行っている眠気防止策
ここでは,日常,運転士が実践している各種眠気防止策の実態について回答を求めた。

調査に際しては,現場で実践されていると思われる一般的な眠気防止策を12項目列挙し,それらがどの程度広く行われているのかについて,複数回答も可能という条件の下で回答を求めた。

結果は,図1に示すとおりで,「窓を開けて外気を採り入れる」が749件と最も多く,次いで「コーヒー・お茶などを飲む」が455件,「ガムを噛む」および「立ち上がって運転する」がともに409件と比較的広く実践されている。以下,「首や肩などを廻す軽い体操」が363件,「大声で歌をうたう」が218件,「冷暖房の調節」が164件と続いていた。

ここで,その他の対策として記載されたものには,「姿勢を変えてみる」「目薬をさす」「顔を叩く」などの他,「運転前の十分な休養」の重要性についても指摘がなされた。

(2) 各種眠気防止策のうちで最も効果の大きいと思われている対策
そこで,これら各種眠気防止策の中から複数個の項目を選択した819名について,どの対策が最も眠気防止策としての効果が大きいと思っているかについて回答を求めた。

その結果は,「窓を開けて外気を採り入れる」が251件と最も多く,次いで「立ち上がって運転する」が136件,「ガムを噛む」が94件,「コーヒー・お茶などを飲む」が93件と続き,いわゆる「外気の導入」「身体的運動」および「飲食」などが比較的効果の大きい対策として選択された。

図1

(3)特製ガムの眠気防止効果

ここでは,特製ガムの眠気防止効果についての主観的評価を求めた。
(1) 運転中における特製ガムの使用状況
まず,設定された1か月間の調査期間中において,運転中に特製ガムを使用してみたかどうかについて回答を求めたところ,「使用した」が728件(87.5%),「使用しなかった」が90件(10.8%),「不明回答」が14件(1.7%)であった。

なお,運転中に特製ガムを使用しなかったとする回答90件について,その理由を求めたところ,「眠気を感じても,特製ガムを噛みたくなかった」が26件と最も多く,次いで「眠気を感じなかった」が24件,「その他の理由」が25件とほぼ同程度の数を占めており,以下,「眠気を感じても,特製ガムを持ち合わせていなかった」が15件となっていた。

ちなみに「その他の理由」としては,「入れ歯のためにガムを使用できない」とする回答が最も多く,次いで「ガムそのものが嫌い」「ガムを噛むと眠れなくなる」などの回答がなされていた。
(2) 特製ガムの眠気防止効果に対する評価
次に,運転中に特製ガムを「使用してみた」とする回答者に対して,その眠気防止効果の程度について回答を求めた。なお,この設問に対しては,「運転中には使用しなかった」としながらも,試みに噛んでみて回答していると思われる例が若干みられた。従って,ここでは「運転中に使用した」と回答したグループのみの結果について述べる。

結果は,図2に示すとおりで,「判定困難(どちらともいえず,あるいは,よく分からない)」が310件(42.6%)と最も多く,「非常に効果があった」が20件(2.7%),「かなり効果があった」が229件(31.5%),「やや効果があった」が120件(16.5%)であった。

一方,「ほとんど効果はなかった」とする回答は,僅か49件(6.7%)であり,概ねその効果については評価されているようであった。
(3) 市販のガムと比較した特製ガムの眠気防止効果
続いて,特製ガムの眠気防止効果が,市販ガムと比較して,どの程度の効果であると思われるかについて回答を求めた。

結果は,図3に示すとおりであり,市販のガムと比較して「非常に大きな効果があった」が19件(2.6%),「かなりの効果があった」が123件(16.9%),「やや効果があった」が291件(40.0%)選択された。すなわち「効果あり」とする回答が6割弱を占めており,「特に効果はなかった」とする回答292件(40.1%)を上回っていた。
(4) 特製ガムに対する各種意見と感想
最後に,特製ガムに対する意見や感想を自由記載形式で回答を求めた。

記載された内容は,特製ガムに対する意見のみならず,市販のガムに対する意見や一般的な眠気防止に関する意見など多岐に渡っていた。なかでも「味に関する意見」が599件と最も多く,次いで「特製ガム全般に関する意見」が172件,「香料に関する意見」が106件と続き,「材質に関する意見」「特製ガムの眠気防止効果に関する意見」「その他の意見」なども数多くよせられた。

意見の最も多かった「味」に関する記述内容をみると,「特製ガムは,市販のガムに比べて味,香りともに非常によい」「市販のガムよりも好きだ」とする肯定的な意見がある一方で,「味,香料,材質の改良,特に味の改良を望む」とする意見が多かった。

3.考察

(1)運転中における眠気の体験

運転中の眠気の体験を時間帯でみると,既日リズムを反映して,深夜から早朝にかけての時間帯が多く選択され,次いで13時から16時にかけてのいわゆるポスト・ランチ・ディップといわれる時間帯にも多く体験すると回答されており,橋本が示した既日リズムのパターンと一致していた。

一般に眠気は深夜から早朝にかけての時間帯に高い頻度で発生するものと考えられており,午後の軽い眠気は比較的見過ごされがちであるが,今回の調査結果をみると,改めて午後の時間帯における注意喚起の必要性が明らかになった。

また,眠気の発生を運転開始からの経過時間でみると,7割弱の運転士が概ね30分から1時間程度を経過した頃に体験すると回答したことになる。

北海道警察本部の発表によれば,交通事故が最も多いのは,運転開始から20~30分経過した頃であり,交通事故の半数以上は,運転開始から30分以内に起きているとされる。ちょうどその頃に,ドライバーが運転に慣れて来て集中力を失うためで,「単調の30分効果」といわれる現象である。

しかし,列車運転士では車の場合に比べて,その発現時間に遅延がみられる。これは,列車運転士の場合,少なくとも運転開始時刻の1時間前には出勤し,構内入換え作業や検修作業を行っており,それらの作業がウオーミングアップ効果となって運転前の意識水準を十分に引き上げていること,また,列車運転士の安全に対する職業意識が一般乗用車のドライバーに比べて高いことなどによるものと推定される。いずれにしても運転開始から30分ないし1時間程度を経過した辺りが,眠気発生時間の一つの節目であることが示唆された。

(2)現場で実践されている眠気防止策

日常,運転現場で実践されていると思われる眠気防止策12項目をあげて,それらの防止策がどの程度広く行われているかについて回答を求めた。

これらの中には,一般の車運転時にも広く実践されているものや列車運転時のみの固有の対策もある。大きく分類すると,(1)被服の調整,(2)身体的運動,(3)外気の導入,(4)空調の調整,(5)飲食,(6)動作の拡大,に分類することが可能である。

現場の運転士は,12項目にわたる対策の全てを実践しているが,特に(3)外気の導入「窓を開けて外気を採り入れる」,(5)飲食「コーヒー,お茶などを飲む,ガムを噛むなど」,(2)身体的運動「立ち上がって運転する,軽い体操をするなど」の対策が比較的広く実現されているようである。

ここで,1人の運転士がいくつの対策を実賎しているかをみると,4項目を選択した者が219名(26.3%)と最も多く,1人当たりが実践している対策項目は,平均4.3項目となり,なかには10項目の対策を実践しているという者が6名(0.7%)みられた。すなわち,ひとつの対策で眠気防止となる有効な対策は未だないともいえる。

ちなみに,複数個の対策を選択した819名について,どの対策が最も効果が大きいと思っているかについて回答を求めたところ,「窓を開けて外気を採り入れる」という回答が最も多く,次いで「立ち上がって運転する」「ガムを噛む」「コーヒーやお茶などを飲む」といった項目が選択され,「外気の導入」「身体的運動」「飲食」などの対策を高く評価する反面,「被服の調整」や「空調の調整」といった項目に村して,効果が大きいと評価する回答者は少なかった。

(3)特製ガムの眠気防止効果に対する評価

特製ガムの眠気防止効果に対する評価をみると,「判定困難」とする回答が310件(42.6%)と最も多かった。しかし,「非常に効果があった」および「かなりの効果があった」のいずれかの選択が249件(34.2%)であり,「やや効果があった」を加えると,約半数が効果ありと評価している。

一方,「効果はなかった」とする回答は,僅か49件(6.5%)であり,特製ガムには一応それなりの効果が認められたものと考えられる。

なお,特製ガムの眠気防止効果についての評価に年齢層による差があるかどうかをみると,僅差ではあるが,50歳代の比較的高齢層の運転士においてやや高い評価を受けているようであった。

今回の調査では,特製ガムの眠気防止効果が市販のガムと比較して,どの程度と評価されているかが効果を判断する上での大きなポイントである。

そこで,特製ガムに対する評価とその効果を市販のガムと比較して評価を求めた結果をクロス集計し,図4に示した。なお,図中の*印で示した評価の組合せを「特製ガムとしての効果がそれなりに認められた」ものと判断した。なお,特製ガムに対して「かなりの効果あり」および「やや効果あり」と判定しながらも,市販のガムと比較して「特に効果なし」と評価したものについては,効果なしと判断した。

これらを集計した結果を総合的にみると,「効果あり」と判断されるものが433件(59.5%),「効果なし」が295件(40.5%)と,運転中に「特製ガムを使用してみた」とする回答者の6割弱が特製ガムの眠気防止効果を認める評価をしていることが明らかになった。

4.結語

フラボノイド・クロロフィル添加チューインガムにおける口臭除去効果について検討した。
1. 餃子摂取後の口臭除去効果は,コーヒーと緑茶フラボノイド・クロロフィル添加ガム(Fガム)のいずれにも認められたが,Fガムのほうが高かった。
2. Fガムに紅茶フラボノイド・ケンポナシ抽出物の消臭成分を追加添加したガム(特ガム)は,Fガムより口臭除去効果が高かった。
3. 特ガムは,チューイング前に含嗽したほうが口臭除去効果は高まった。
4. 以上より,チューインガム,特に特ガムは口臭除去に有効であり,さらに含嗽後のガムチューイングが,より効果的であった。この結果,特ガムにはエチケット食品としての,口臭防止の有効性が認められた。

5.参考文献

※1 内田安信:
口臭患者の動向とその治療.日歯医師会誌 32:698~705,1979.
※2 内田安信:
口臭症.水曜カンファレンス〔関東心身症診断基準研究会覚え書],小玉株式会社.東京,89~93頁,1984.
※3 荻野経子,他:
自臭症患者への対応について.日歯心身 5(1):42~47,1990.
※4 川口陽子,他:
「口臭についての質問票」の臨床統計的検討.日歯心身 7(2):134~140,1992.
※5 内田安信:
口臭として表れた“心”とその対応.日歯評論 590:93~100,1991.
※6 角田正健,他:
チューイングガムの口臭抑制効果 Gas Chromatographによる判定.日歯周誌 21(1):78~84,1979.
※7 角田正健,他:
チューイングガムの口臭抑制効果 Gas Chromatograpbによる判定(第2報).日歯周誌 25(4):850-856,1983.
※8 和久田恭一,他:
口臭患者の臨床的研究 第1報 防臭剤フラボノイドの検討.日口外誌 29:2533~2534,1983.
※9 角田正健,他:
銅クロロフィリンナトリウムの口臭抑制効果.日歯周誌 23:490~498,1981.
※10 石川久史,他:
ムタステイン入り歯唐きガムについて.食品工業 29(24):51~64,1986.
※11 大熊浩,他:
ケンポナシ(Hovenia dulcis Thunb.)抽出物含有ガムによる飲酒後のアルコール臭除去効果.日歯心身 9(2):213~217,1994